車輪

車の免許を持っていない。

大きい買い物をする時はもちろん困るし、知人とどこかへ行くことになっても運転を任せっきりなので申し訳なく思うし、色々と不便なんだけど、車に乗った自分を想像するとどう足掻いても誰かを轢き殺している姿に行き着くので取る気になれない。逆に「みんな車の免許を持っていて車で移動するのが当たり前」みたいになっている世の中が理解できない。だってヤバイですよ車。めっちゃ簡単に人を殺せる。殺意があって人を殺しちゃうならまだ分かるんだけど(というのもアレだけど)、その気がなくても不注意や操作ミスで割と殺せる。なんでこんな簡単に人を殺せる道具が一般的になってるんだ。

などと、畏怖の対象として車を見てしまうのは、子供の時に信号無視車に轢かれた事があるからなんだろう。しかも2回。

 片方は跳ねられた瞬間から身体と一緒に記憶もフッ飛んだらしくて何も覚えてないんだけど、もう片方はハッキリと覚えている。

僕を轢いた車から降りてきたオジサンは酷く狼狽していて、しきりに「大丈夫か」「怪我はないか」と聞いてきた。体が痛い旨を伝えると「じゃあ家の近くまで送るから案内してくれ」と言われた。

今にして思えば病院へ連れていけよと思うけど、車内でも「大した怪我じゃないよな?」「この事は親にも内緒にしてね?」と声を掛けられ続けたし、大事にしたくなかったんだろう。実際、今同じように轢かれたら少しでも大事にして金をせびってやろうとか言い出しかねない。嫌な人間になったものだ。

しかし、当時まだ幼く純粋無垢だったりんひら少年は、言われるがままに痛いのを我慢し、言われるがままに家まで案内し、言われるがままに車に轢かれた事を内緒にし続けたのである。

高校生だか大学生くらいになってから、ふとこの事を思い出して親に話したら、「そんなに素直だった子が今ではこんな……」みたいなリアクションをされた。捻くれ者に育って悪かったな。

 

……なんか車の思い出について話せば話すほど捻くれて育った自分が悪いってだけの話になってきた。嫌な自分に気付かせやがって。やっぱり車は悪だ。車など滅びてしまえ。