ピザを食べないなんて人生の半分を損しているよという話

「これを知らないなんて人生の半分を損してるよ!」

ああ、まただ。またこのセリフだ。自分の大好きなものを他人にも伝えたいがゆえに飛び出る、この大げさすぎる言葉。彼(彼女)らは他人の人生をいともたやすくカットしてしまう。ピザを人数分に切り分けるが如く半分に、半分に、半分に切っていく。あのマンガを読んだことがないから2分の1。この映画を見てないなんて4分の1だわ。その曲を聴いたことがないなんて8分の1だよ。手元に残るピザはどんどん小さくなる。128分の1に。1024分の1に。はぁ、こんな少しだけのピザなんて食べたくないよ。誰か代わりに僕のピザも食べてくれないか。遠慮するなよ。たしかに小さすぎてもう味も何も分からないけどさ。

誰にも僕の言葉は届かない。たった今32768分の1に切り分けられた。その間にもピザは食べられるのを待ち、冷めていく。僕は迷いながらピザへ手を伸ばす。僕の人生は65536分の1になっていた。